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耐震診断

補強計画のセオリー②

補強計画のセオリー①で少し触れましたが、Isを上げる以外の耐震補強の方法として、免震補強、制震補強があります。
免震補強も、制震補強もIsの式の右側の記号の数値を上げる補強方法ではありませんのでIsは変わりません。
では、Isは変わらないのに、何故、補強効果があるのでしょうか?

免震補強

rei.gif 建物の基礎、地階中間階、地上中間階等に「免震層」を新設して、免震層から上の地震応答を低減する補強方法です。
マスメディアでもよく取り上げられており、その効果が感覚的に分かる方は多いと思います。
免震装置は、免震支承と免震ダンパーで構成されます。免震支承は建物重量の支持と上部構造の長周期化を担い、免震ダンパーは振動の減衰を担います。一つの装置で両方の役割を担う製品もあります。


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免震支承は、鉄板とゴムを交互に積層したものが通常使用されます。鉄板が入っているので高さ方向には殆ど動きませんが、横方向にはゴムの弾性が最大限発揮されます。このことにより、上部の荷重は支えながら、横方向の弾性を大きくして上部建物の固有周期を長くします。

上の図は建物の固有周期と建物の応答(地震動に対する反応)の関係を示しています。建物の固有周期は大体建物の高さで決まります。振り子の固有周期が糸の長さで決まるのと同じで、建物が高いほど(振り子の糸が長いほど)固有周期が長くなります。

RC~10階建程度で0.6秒位です。ある程度までは固有周期が長くなるほど、地震力は増幅されますので、地面で400ガル位の地震がRC8~10階建程度の建物に入ると1000ガルくらいまで増幅されます。これを建物の応答といいます。建物の固有周期がさらに長くなると今度はこの応答は減って、超高層ビルなど固有周期が3秒以上になるため、建物の応答は地面よりも小さくなり300ガル位まで減ります。これが、超高層ビルが地震に強い理由ですが、この長周期化を建物の高さではなく、装置で実現するのが免震支承です。

ただ長周期化しただけでは揺れ幅(変位量)が大きくなり、変位量を制御する機構が無いと地震が続く間に揺れ幅がどんどん増幅されてしまうのでそれを抑える必要があります。そのために減衰装置である免震ダンパーが同時に組み込まれます。これは、自動車のショックアブゾーバーと同じです。自動車のサスペンションはスプリングとショックアブゾーバーで構成されていますが、スプリングでショックをやわらげて、それだけだといつまでもふわふわと揺れて、走っている間にどんどん揺れが増幅していくことになるのでショックアブゾーバーで揺れを減衰させます。免震ダンパーは自動車のショックアブゾーバーと同じ仕組みで地震のエネルギーを熱エネルギーに変えることにより減衰させます。

以上のように、長周期化で、地震の応答(加速度)を減らし、高減衰化で地震の応答(変位)を減らすという複合方式が免震補強の特徴です。

制震補強

制振装置は一般的にブレース状のものが多いです。普通の耐震補強で使用されるブレースと見た目は良く似ています。

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制振装置の例

何が違うかと言うと、普通の耐震補強で使用されるブレースがIsの式の右のCを増加させることによりIsを増加させるのに対して、制振装置は減衰装置により、地震エネルギーを熱エネルギーに変えて、地震の応答(変位)を減少させます。
免震装置の免震ダンパーと機能は同じです。

さて、免震補強と制震補強の原理は理解できたとして、どうやってその定量的効果を耐震補強の構造設計に反映させるのでしょうか?

一般的な耐震補強設計は耐震診断と同じ耐震診断基準を用いて行います。補強後の状態を構造プログラムに入力してIsを計算するのです。
この耐震診断基準の方法はIsと関係がない免震補強と制震補強には使えません。
では、新耐震基準はどうでしょうか?前にも触れましたが、一般的な新耐震基準の構造計算は、想定される地震力で建物が静的にグーと押されるイメージの計算です。免震補強と制震補強は振動の減衰効果がその原理ですが、静的にグーと押しても振動もしないし、減衰もしませんのでその効果は確認できません。
そこで免震補強と制震補強の補強設計は、超高層ビル等の構造計算に使用されている振動解析(地震応答解析、時刻歴解析等とも呼ばれます)を用いて行います。

振動解析は、モデル化した建物にモデル化した地震動の振動を実際に構造プログラム内で与えて、その応答を時間経過に沿って追いかけます。そして建物が実際に何秒の固有周期で、幾らの変位量で振動するか等を計算して最大変位等を求めます。各階各方向の変位量が補強部材の追加によって所定の変位量等の目標値(クライテリアといいます)に納まればOKとなります。

建物の居住性等を総合的に考慮すると、免震補強は免震層以外には手を加える必要がなく、揺れ自体を抑える補強方法ですので、現時点で考えられる耐震補強の方法の中では、一番優れているといえますが、その免震層を造るコストが非常に高いため、コスト面では一番不利になります。

一般的に耐震補強に要するコストは10~20万円/延坪が目安になるのに対し、免震補強の場合は200万円/建坪程度必要になります。従って、免震補強以外の補強方法と比較した場合、10~20階建でやっと同等のコストとなり、それより階数が低いと割高になる傾向があります。

制震補強の場合は、必要補強量(必要補強箇所数)・1か所あたりの単価共、耐震診断基準に基づいて計算したブレース等の補強部材と殆ど変りませんので、概ね通常の耐震補強と同程度のコストとなります。


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