耐震診断
耐震診断とは何か?①
いよいよ旧耐震建物の耐震診断の話です。
耐震診断は、国の法律である「建築物の耐震改修の促進に関する法律(耐震改修促進法)」に基づいて行います。
この法律と、この法律に基づく告示や住指発と呼ばれる通知の中で、耐震診断の方法が規定されています。
その中にはもちろん、現行の建築基準法(新耐震基準)に適合するものであることを確認することも、耐震診断の方法として認められています。
しかし、実際には新耐震基準で診断することは皆無で、通常は、「耐震診断基準」と呼ばれる幾つかの方法の中から診断方法を選択して診断を行います。
新耐震基準と同等かどうかを確認するのだから新耐震基準で確認するのが一番手っ取り早いのではないか?と思われるでしょうが、そう簡単にいかないためです。
今では、構造計算は構造計算プログラムを使用して、コンピューターに計算させるのが一般的(というか、全て)ですが、新耐震基準に移行した当初は、コンピューター、とくにパソコンは殆ど普及しておらず、新耐震基準で想定している高度な計算はとても手計算では全ては行えなかったので随分と無茶な単純化(例えば、存在する壁を無いことにするような)をした上で計算されていました。
新耐震基準に移行してからでもそんな状態ですから、旧耐震基準の時代は、ほぼ全ての構造計算が手計算で行われていましたし、旧耐震基準自体、手計算を前提に作られていました。
どんどんとコンピューターが進化し、新耐震基準に基づく精緻な計算がパソコンでも数十秒で出来るようになりましたが、移行当時は、精緻な計算は大型コンピューターでさえ一晩かけて計算していたのです。そのレベルの計算を手計算で出来るわけがなく、手計算を前提に作られた耐震基準がいかに大雑把なものだったか想像に難くありません。良く言えば工学的判断(構造設計者の構造的知見に基づく判断)をフル活用した、悪く言えば随分と大胆な計算が行われていたわけです。
加えて、新耐震基準では多くの仕様規定(計算外の最低基準)が盛り込まれました。例えていえば、コンクリート断面積に占める鉄筋の断面積の合計は何%以上なければならない、といった規定です。旧耐震基準時代に設計された建物が後から作られた最低基準に適合しているわけがありません。
構造プログラムというのは、そのような仕様規定も含めて全ての建築基準法の規定に適合して初めてプログラムが走るように作られており、エラーが出ずに最後まで計算が終了するかどうかで適合性を判断するようになっています。
そのようなプログラムに旧耐震建物の構造部材(柱のサイズや鉄筋の本数等)をそのまま入力したらどうなるか、当然のことながらプログラムは走りませんので判定不能、という結果になってしまいます。
そこで、新耐震基準に代わる方法で、新耐震基準と同等であるかどうかを判定するために様々な耐震診断基準が定められています。
主なものを取り上げるだけでこんなにあります。
「診断」という言葉が使われていますが、これらは全て「構造計算の方法」です。
何故、こんなに色々出来てしまったのか、その経緯は知りませんが、想像するところでは、元々の国の法律(耐震改修促進法)が計算方法まで明確に決めなかったためではないでしょうか。耐震改修促進法には基準となる指標等は示されているのですが、それをどういう風に計算して求めるのかまでは規定されておらず、色々な公的団体がその計算方法を研究して規準化したのだと思います。
今では、上記の診断基準(法)は全て、耐震改修促進法に基づく住指発等により、耐震診断の方法として正式に認定されています。