耐震診断
耐震診断とは何か?②
もう少し具体的に説明します。
前記のように色々な計算方法があるのですが、民間のRCやSRCの一般的な建物(マンション、事務所ビル等)に限れば、ほぼ耐震診断とは何か?①の表において赤字で示した一般財団法人日本建築防災協会(建防協)策定の「RC診断基準」「SRC診断基準」「S診断指針」が用いられています。
建防協の診断基準に準拠した構造計算プログラムが多数の構造ソフト会社から出ているのと、これらのプログラムについて、診断基準を策定した建防協自身がチェックして認定を与えているので、信頼性が高いためだと思います。
官庁発注の耐震診断でさえ、他に官庁建物用の耐震診断基準(官庁施設の総合耐震診断基準)があるにもかかわらず、その多く(推定で50%以上)は、建防協の診断基準で耐震診断が行われています。
では、建防協の耐震診断基準とはどのようなものでしょうか?
Is ≧ 0.6
極言すれば、Is≧0.6かどうかを判定するのが建防協の耐震診断です。
Isは「Seismic Index of Structure(構造耐震指標)」の略です。すっかり耐震診断の代名詞になった感がありますので、Is≧0.6というのは聞き覚えのある方も多いと思います。
しかし、じつはIs≧0.6の0.6は初めから決まっているわけではありません。もう少し詳しく書くと次のようになります。
Is ≧ Iso=Es×Z(×Rt)×G×U
(×Rt)はSRC造の場合
Is≧Isoかどうかを判定するのが建防協の耐震診断です。
Isは建物固有の数値で、詳細な構造計算によって求めることになり、それが耐震診断計算ですが、Isoも簡単な計算(指標の掛け算)で求めますので変動します。
Isoを求める算式の、Esが建物に必要とされる基本的な耐震性能を示す指標で、Zが地域指標、Gが地盤指標、Uが用途指標(重要度指標)です。
Zは東京であれば1.0ですが、沖縄であれば0.7です。Gは一般的には1.0です。Uは建物用途で異なってきて一般の民間建築で1.0、防災拠点になるような建物は1.5です。
Is≧0.6とは、Z以下が全て1.0の場合で、Esが0.6の場合を示しています。
では、Es=0.6とはどういう状況なのでしょうか?
上は過去の大地震の被災状況と、被災建物を二次診断した場合のIsの関係を示したものです。縦軸・横軸はそれぞれの方向のIs値です。
いずれの地震においても、各方向のIsが0.6以上の建物では人命に影響する大破以上の被害は生じていません。いずれの被災地もZ=1.0なので、Esを0.6として、Is≧0.6とすれば新耐震基準の目標水準は達成できていることになるのです。
なお、建防協の耐震診断基準には、その計算量によって、三つの基準があります。
第1次診断法
主として強度型の建物(例えば壁式構造や耐震壁が多く配されたラーメン構造の建物)の耐震性能を簡略的に評価する目的で開発された診断手法です。性能評価の基本となる柱・壁の強度は、部材の断面積から略算的に求めるため計算は最も簡単です。
第2次診断法
梁よりも、柱・壁などの鉛直部材の破壊が先行する、すなわち、柱崩壊型の建物の耐震性能を評価する目的で開発された診断手法です。第2次診断法では梁は剛強と考えて計算上考慮しませんが、柱・壁の強度算定にはコンクリート強度だけでなく鉄筋も考慮し、部材の靭性も考慮しますので第1次診断法よりも計算の精度は遥かに高くなります。
第3次診断法
梁の破壊が柱・壁などよりも先行する、すなわち、梁崩壊型の建物の耐震性能を評価する目的で開発された診断手法です。第3次診断法では柱・梁に加えて、梁の強度を考慮しますので、計算量は最も多くなります。
第1次診断の場合、略算であることから安全率を多く見てEs=0.8としていますので、一般的にはIs≧0.8となります。
第2次診断、第3次診断の場合は、共通でEs=0.6としていますので、一般的にはIs≧0.6となります。