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耐震診断

耐震診断義務化

東京都では、一定の道路(特定緊急輸送道路といいます)に面する旧耐震建物のうち、高さが道路幅の1/2を超えるもの(道路幅が12m以下の場合は高さ6m超の建物のみ)の耐震診断が義務化されました。
詳しい適用要件や手続きの内容は、対象建物の所有者には既に東京都から何度も通知や説明が行われていますのでここでは割愛します。

とにかく、随分と思い切った施策が断行されたものです。

都の鼻息は相当荒く、耐震診断費用の全額を都が補助するという建前で、実際の補助申請の窓口となる各特別区・市町村はその対応に右往左往しています。
耐震診断義務化は期限がありませんが、補助には2年間の期限があり、対象となる建物の所有者は2年以内に耐震診断しないと義務だけが課されることになります。
実際の補助費用の負担者は東京都ですが、窓口となる各特別区・市町村は一旦補助費用相当額を立替えるために予算取りが必要で、なかには、既に予算を使い果たした区があったり、逆に予算を取ったのに補助の申し込み(助成申請と言います)が全然こない区があったり、混乱は当分収まりそうもありません。

この東京都耐震診断義務化には大きな問題が2点あると思います。

1点目は補助額の決め方です。

なぜ、そんなことになったのか不思議ですが、補助額の限度(助成限度額)は、下式で計算されることになっています。

  1,000~2,000円/㎡×延床面積(㎡)

実際はもっと細かく規定されていて、
・1000㎡以内・・・・・・・・・・・・・ 2,000円/㎡
・1000㎡超2000㎡以内・・・・・ 1,500円/㎡
・2000㎡超・・・・・・・・・・・・・・・ 1,000円/㎡
の単価で積み上げることになっており、さらに、延面積が3,000㎡未満の場合は15万円/階を加算、10,000㎡超の分譲マンション以外は80%の助成率、等のルールが決められていますが、いずれにせよ、延床面積を基準にした助成限度額になっています。

恐らく官庁発注の耐震診断の平均発注単価をベースに、それよりも若干高めにすれば足が出ることはないだろうとの安直な考えで決めたのでしょうが、耐震診断に幾ら掛かるのか?で述べたとおり、個別の耐震診断に要する費用は決して延床面積で決められるものではないのです。
対象建物が約4,000棟と言われていますが、確かに4,000棟の見積を全部平均すればこの助成単価に収まるでしょうから、予算取りはそれでよいと思います。問題は本来、予算取りに使うべき目安を助成の基準にしたことで、大きな間違いです。
本当にこれは役人的発想だと思います。

特に、設計図面が無い場合の耐震診断にどれだけの手間を要するのかを、助成限度額を決める時点で十分理解していたのかが非常に疑わしいです。
上記の助成限度額の計算規定のうち、「3,000㎡の場合は15万円/階を加算」というのはじつは後から追加されました。耐震診断に必要なコンクリートコア抜き調査はどんな小さな建物でも3か所/階の本数を採取する必要がありますが、小さな建物だと耐震診断費用に占めるコンクリートコア抜き調査費用に割合が大きくなるため、助成限度額の範囲内ではカバーすることが出来ないことを後から知ったからでした。
それ位、いい加減な話ですから、設計図面が無い場合のことなど全く念頭になかったのではないでしょうか。
設計図面が無いと、ケースによっては耐震診断の費用が設計図面のある場合の倍程度に膨らむことも珍しくありません。到底、助成限度額に収まるわけがないのです。

助成限度額に収まらず、自己負担を強いられている建物所有者が続出しています。
東京都は全額助成を謳った以上、何らかの対策を早急に取るべきだと思います。

2点目は今後どう収拾をつけるつもりなのか、という点です。こちらのほうがさらに深刻です。

今回の耐震診断義務化は、特定緊急輸送道路という都内でも比較的広幅員の道路の1/2以上の高さの建物が対象ですので、基本的に4、5階建以上になります。

経験的に、5階以上の建物で耐震診断をしてOKになる(全階・全方向のIsが0.6以上になる)ケースは非常に稀ですので、対象建物の多くは何らかの耐震補強が必要という判定になると思います。

程度の差はあれ、補強するとなると、工事費用の問題、テナント補償の問題等、多くの問題を解決せねばならず、相当の難航が予想されます。何よりも工事費用の問題です。無い袖は振れません。
かといって、これだけ大々的にやれば入居者(テナント等を含めて)も耐震診断をしたことは承知しますので、結果を黙っておくわけにもいかず、結果を伝えた以上、不安になります。

自ら進んで補強も視野に入れながら耐震診断を行ったのならいざ知らず、強制的に耐震診断をさせられて、耐震補強は義務ではないので、少しは補助しますが基本的には自己費用でどうぞ、というのではあまりにひどい話です。

そもそも旧耐震建物故の耐力不足は違法ではなく、既存不適格に過ぎませんから、耐力が不足するからといって、強制的に補強させることは法的に無理があり、耐震補強が耐震診断のように義務化出来ないのは理解できますが、少なくとも耐震診断を義務化する以上、耐震補強を任意で希望する建物所有者に対しては補強工事費を全額補助する制度にすべきではなかったのでしょうか。


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