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耐震診断

図面が無い場合はどうする?

設計図面が残っていない、というのが耐震診断において一番厄介です。構造計算書は残っていなくても設計図面がある限り問題ありません。新たに一から計算し直すのですから。
構造計算書が残っていれば設計図面がなくても何とかなる場合もありますが、設計図面が残っていないのに構造計算書だけ残っていることは通常考えられないので、それはあまり期待できません。
とにかく、設計図面がないのは本当に厄介です。

これまで、設計図面がない建物の耐震診断は殆ど行われてきませんでした。特に、SRC造(鉄骨鉄筋コンクリート造)やS造(鉄骨造)の場合、設計図面がないと全くお手上げで手が付けられませんでした。

ところが、東京都の耐震診断義務化では、設計図面の有無にかかわらず対象要件に合致する建物は例外なしに耐震診断の義務化が行われたため、状況が一変しました。
これまで「設計図面がないのだから耐震診断が出来なくて仕方ない」とされていたものが、「設計図面がなくても何とかして耐震診断をやらなければならない」に変わったのです。
官庁発注の耐震診断についても、東京都の耐震診断義務化以後、急に設計図面がない案件が増えているように感じます。

さて、これまで述べてきたとおり、耐震診断は、現状に合わせて補正はするものの、あくまでも設計図面をベースに行われます。
耐震診断は、設計図面に記載された位置に設計図面に記載された柱・梁・壁等の構造材が、設計図面に記載された構造断面・配筋・鉄骨部材等で施工されているものとし、設計図面に記載された仕上・用途等による固定荷重・積載荷重が発生しているものとして計算します。
現地調査は設計図面が正しいかどうかの照合をするだけであり、一から設計図面を作成するわけではありません。

ところが、設計図面がない建物の耐震診断を行う場合は、現地調査に基づいて一から設計図面を作成しないといけなくなるのです。これを図面の復元といいます。

これから建物を建てるわけではありませんので、通常の設計図面のように、矩計図、展開図、天井伏図、建具表、部分詳細図、電気設備図、給排水衛生設備図、空調設備図のような「造るための図面」までは不要ですが、少なくとも構造計算に必要な図面、つまり下記のような図面を復元する必要があります。

各階平面図
立面図
断面図
内外仕上リスト
各階伏図
軸組図
構造部材リスト
主要設備機器配置図  等々

では、耐震診断に必要な図面を復元するためには現地調査とは?で説明した現地調査以外に(加えて)どんな調査が必要になるのでしょうか?
RC造を例に説明します。

寸法調査①→概略伏図作成

何もない、という状況からだと、まず現地にて、柱スパン、柱の基本サイズ、階高、梁の基本サイズ、RC壁の配置等の基本情報の寸法調査を行って、まず柱・梁・壁がレイアウトされた基本図面(概略伏図)を作成する必要があります。テナント図面や概略平面図等、参考になるものがあれば活用して作成します。

 
寸法調査②→伏図・軸組図の復元

概略伏図が出来たら、今度はさらに現地にて、各柱断面寸法、各梁の断面寸法、各RC壁の厚み・開口サイズ等の全数寸法調査を行って、構造部材の大きさを確定し、伏図・軸組図を作成します。

 
部材名称の設定

ここまでは力技ですが、ここからが工学的判断が必要な調査となります。柱・梁・壁の断面サイズ、位置等から勘案して、配筋が同一であろうと考えられる部材をグルーピングして、同一の部材名称(柱であれば、C1、C2・・・等)を設定します。

 
配筋探査

同一の部材名称を設定した部材を出来るだけ多くサンプリングして鉄筋探査機等による配筋調査を行い、部材名称の設定に相違がないかをチェックします。

斫り調査

斫り調査 各階ごとに、同一の部材名称を設定した部材を最低一か所以上、実際に斫って鉄筋の径が種別(丸鋼・異形鉄筋)等の確認を行います。
斫り調査は構造体に与える損傷を最小限にしなければいけませんが、単に鉄筋1本だけ斫りだして確認すれば済むわけではありません。
柱であれば、昔の建物は主筋(縦方向の鉄筋)のうち、コーナーの鉄筋とその他の鉄筋では径が違うことがあり、また、フープ(主筋を束ねる横方向の鉄筋)のコーナー部分のおさめ方(フック形状)等も確認する必要がありますので、1/4以上の断面を斫ることになります。
当然ながら斫り調査後直ちに無収縮モルタル等で補修を行い、従前の構造性能を回復します。
なお、最近では斫り作業に伴う騒音や躯体への損傷を考慮して、鉄筋位置までコンクリートコア抜きを行って調査するケースが一般的になっています。


構造部材リストの復元

寸法調査、配筋探査、斫り調査の結果に基づき、柱・壁等の部材断面リスト(大きさと使用されている鉄筋の径、本数、ピッチ等が表示されたリスト)を作成します。これがないと第2次診断以上の耐震診断は出来ません。

その他の図面の復元

上記調査の結果、及び通常の現地調査の結果を踏まえて、その他の各階平面図、立面図、断面図等の復元を行います。復元に必要な事項がさらに必要であれば追加で現地調査を行います。

これでやっと耐震診断のスタート台につけます。全くもって大変です。

但し、ここまでの現地調査で忘れていることがあります。そうです。これが高速道路の構造体の現地調査であれば上記は調査員を大量動員すれば可能ですが、建築物は仕上がなされていて、上記の調査対象となる構造躯体は殆ど隠れているのです。
つまり、仕上の撤去・復旧という作業が必要となるのです。綺麗に大理石が貼られた壁を壊して復旧することなど出来るわけがありません。当然ながらテナントが使用している部分をところ構わず壊すわけにもいきません。さらに、アスベストが使われていたら、まずその処理が先に必要になります・・・
理想的には寸法調査も仕上を撤去して全数調査、ですが現実的には部分的に仕上を撤去して仕上厚を測り、その他の部分は仕上厚を想定して仕上の上から寸法調査をすることになります。
どうしても斫り調査が出来ない部分は安全側で配筋を想定するしかありません。
また、多くの場合(多くの箇所は)、いつまでも仕上を撤去した状態で放置するわけにはいきませんから、撤去して調査して直ぐに仕上を復旧する必要があり、調査員と施工会社の相番作業になります。撤去・復旧の騒音、安全確保等を考えれば、これらはどうしても夜間作業になりがちです。
あれやこれやで、調査するほうも大変ですが、費用もとんでもなく掛かる場合があり、建物所有者が何と言っても一番大変です。

設計図面がない、と簡単にあきらめないで、とことん探すことが先決です。そう簡単に捨てるものではないので、どこかに眠っている可能性が大です。
購入した建物であれば以前の所有者、ビル管理会社が変わっていれば以前の管理会社等にもあたってみることをお勧めします。ひょっとしたらちょっとした改装工事のときに施工会社に貸し出したままになっているだけかもしれません。あらゆる可能性をもう一度考えてみてください。


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