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耐震診断

補強計画のセオリー①

建物の耐震性能(耐力)を決める要素は、耐震診断基準も新耐震基準も殆ど同じです。逆数になったり、算出方法が違ったりはしますが。
新築の建物、既存の建物という違いはあるものの、それぞれ長年、耐震性に関する調査、研究が行われた成果が数式化されたものであり、両方とも同じ目標に向かっているのですから、当然と言えば当然です。

またしても、誤解を恐れながら、Isの概略計算式を示します。

Is= 1/Ai×C×F×SD×T

この式の、「C×F」の部分が、極めて大雑把で正確性に欠けることは耐震診断とは何か?③で説明しましたが、これ以上踏み込むことは話を余計にややこしくするだけなので、相変わらずこの式で話を進めます。

まず、記号の意味の復習です。

Isは「Seismic Index of Structure(構造耐震指標)」の略です。普通は、Is≧0.6となるように補強計画を検討します。何故、0.6が指標になるのかが気になる方は耐震診断とは何か?②で再確認ください。

Aiは建物の高さ方向の地震力の増幅を補正する係数で上階に行くほど地震力が大きくなりますのでAiの逆数(1.0以下の数字)によってIsを割り引きます。

Cは建物の「強度」の指標です。部材の強度を建物重量で割って求めます。

Fは建物の「変形性能(靱性)」です。最も変形性能がない部材が0.8で、最も変形性能が高い部材が3.2となります。

SDは建物バランスによる指標です。最大バランスがよくて1.0、バランスが悪いとだいたい0.66程度まで下がります。

Tは、経年劣化を反映させる指標です。全く劣化の影響がない場合で1.0です。かなり劣化していても0.9を下回るようなケースはほとんどありません。
耐震補強とは、普通はIs値を上げることですので、普通は式の右側の記号の数値を大きくすることを計画します。ここで、普通は、普通は、というのは普通でない方法があるからで、免震補強、制震補強の場合は違ってきます。

右側の記号の数値のうち、 019.png を増やすのに直接的に有効な手立てはありません。理論的には、ある階のIsが不足する場合、その階よりも下の階の重量を減らすか、その階を含むその階よりも上の階の重量を増やせばその階の 019.png は増えることになりますが、現実的な問題として他の指標に影響させないで重量だけを増減させるのは困難だからです。(なお、019.png ではなく、もっと簡略的に階数だけでこの指標を求める方法も併用されており、そちらの場合はそもそも階別の建物重量は関係ないので増やすことも減らすこともできません。)

Cを増やすには、部材の強度を上げる(または強度のある部材を追加する)ことと建物重量を減らすことが有効です。

Fを増やすには、部材の変形性能を上げることが有効です。

SDを増やすには建物バランスを改善します。建物バランスは重量と剛性のバランスで決まるのですが、重量のバランスはなかなか変えられないので剛性のバランスを修正します。

Tを増やすためには、劣化部分の補修が有効です。

耐震補強というと、すぐに鉄骨のブレースが外部にたくさん取り付けられた姿をイメージされると思いますが、これは上記のうち、強度のある部材を追加してCを増やす手法です。
手っ取り早く(補強効果が大きく)、使いながら施工する(居ながら施工)には適していますので多用されていますが、お世辞にも美しいとは言えず、もう少し意匠性に考慮した補強計画を考えたいものです。(自戒を込めています・・・)

また、補強計画を検討する上では、補強後の建物の使い勝手はキーファクターになりますので常に念頭において進めます。

なおここからは、蛇足ですので読み飛ばしていただいて結構ですが、先ほど述べたとおり耐震診断基準は新耐震基準と殆ど同じということを示すために、このIsの式を新耐震基準で使われている記号で表現してみます。

houteishiki.gif

Is=ではなく、Is∝としたのは、さすがにイコールにはなりませんので・・・
また、Tは当然ながら新耐震基準にはありません。
これ以外にも新耐震基準では、Z、Rtという記号が出てきますが、これらは耐震診断基準ではIsoの計算に使われます。
(耐震診断とは何か?②)


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