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トピックス 2014年6月

2013年改正の耐震改修促進法 全国的に耐震診断義務化

東京都で始まった耐震診断義務化が全国に広がりました。

東京都の耐震診断義務化は、
・建物が特定緊急輸送道路という幹線道路に面し、
・その建物の高さがその幹線道路の道路幅の1/2以上
という条件だったので、延床面積が100㎡のペンシルビルでも対象になってしまいましたが、

この全国区の新耐震診断義務化は、
・3階建以上かつ延床面積5000㎡以上の、
・病院、店舗、旅館等
がメインターゲット(他にもターゲットはあります)となったため、基本的には大規模建築物が対象です。

大規模建築物の所有者は弱者ではないと言わんばかりに、今度の耐震診断義務化は随分と助成金(補助金)制度が手薄です。

東京都の耐震診断義務化において、耐震診断費用については、原則、全額の東京都負担を謳っています(本当は必ずしもそうなりません)が、今度の義務化は酷いです。
国は、
地方が耐震診断費用の1/2を負担するなら国も1/2負担するので、耐震診断費用は所有者負担はゼロです。
と嘯いていますが、日本全国、1/2負担する自治体はどこにもありません。それどころか、全く負担しない自治体が山ほどあります。

そうなるとどうなるか?

国が耐震診断費用の1/3を負担しておしまいです。なんと所有者負担が2/3です。それも、耐震診断費用が国が定める単価(この単価は東京都の耐震診断義務化とほぼ同じです)以下で納まった場合の話であって、構造図面が無い等で費用が超過した場合の超過分は全部所有者負担です。

わかりやすく数字で示すと、仮に延床面積が5000㎡で耐震診断費用が1000万円掛かるとします。
国が定める単価で計算した耐震診断費用は823万円なので、補助は823万円×1/3=274万円、所有者負担は、1000万円-274万円=726万円です。
たまたま5000㎡以上の建物の所有者だったために、いきなり税金が726万円掛かるのと同じです。
(これは国の法律で決まった義務ですから税金と一緒で逃げられません。)

しかも、たちの悪いことに、この税金を払った所有者の多くは、耐震診断の結果、耐震性能が不足する、という現実を目の当りにすることになります。
税金を払っておしまいじゃなく、税金を払ってさらに苦しい立場に追い込まれるのです。
自発的に耐震診断をして、補強を行うというのであれば納得がいきますが、強制的に耐震診断をやらされて、その費用を負担させられて、今度は多額の費用を掛けて補強するかどうかを迫られるのです。
耐震改修の助成率は最悪のケース(自治体に助成制度が無い場合)は、なんと11.5%です。90%の費用が所有者負担です。

これもわかりやすく数字で示すと、仮に延床面積が5000㎡で耐震改修費用が3億円掛かるとします。
国が定める単価で計算した耐震改修費用は2.435億円なので、補助は2.435億円×11.5%=2800万円、所有者負担は3億円-2800万円=2.72億円です。
仮にこれが収益不動産だとすると、東京に所在したとしても年間NOI(年間純収入)は1億円程度でしょうから、3年分の純収入が吹っ飛びます。(補強工事に1年掛かったとすると4年分が吹っ飛びます。)
しかも、1年間の工事の間、どこかで待ってくれるテナントなんていませんから、通常は明渡が必要になり、明渡料が発生します。そして、補強工事を行ってから新規にテナント募集しても使い勝手は通常悪くなりますから賃料は下がります。
こんなことをやっていたら間違いなく不動産賃貸事業は成り立たなくなります。
とはいえ耐震改修しなかったら(耐震改修は努力義務ですので耐震診断と違って必ずしなければならないわけではありません)、今度はテナントが心配で出て行ってしまうかもしれませんし、新規に募集するときは重要事項説明で耐震診断を行ったことを開示しないといけなくなります。

どちらに転んでも地獄が待っています。

国はこの辺りを一体どう考えているのでしょうか?
耐震化は必要なことですが、国が強制的にそれをやらせるならばお金を全額出せ、と言いたいのは私だけでしょうか??


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