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耐震診断

新耐震基準で何が変わったか?②

旧耐震基準から新耐震基準への移行で、もう一つ大きく変わったのは、地震力の考え方です。
稀に発生する地震(≒震度5強≒300ガル)に対して、軽微な損傷しか生じないという基準は変わらないと先に述べましたが、厳密にいうと少し違います。
大正時代から旧耐震基準の時代まで、地震力は水平震度で扱われてきました。
水平震度=0.2というのは、重力×0.2倍の地震力が建物に作用するということですが、重力とはすなわち建物の重量のことですので、建物各階の重量が同じだとすると1階も最上階も同じ地震力ということになります。(下図左)

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          水平震度の考え方       標準層せん断力係数の考え方

感覚的にも分かることですが、実際には1階と10階では地震力は大きく異なってきます。上階に行くほどよく揺れますし、定量的な地震力も増幅しています。1階が300ガルなら上の方は2倍とか3倍の地震力になるわけですが、その階数(高さ)による増幅が、旧耐震基準以前は全く考慮されていませんでした。
新耐震基準では、水平震度で地震力を想定する代わりに『標準層せん断力係数』で地震力を想定する考え方に変えました。稀に発生する地震を標準層せん断力=0.2と規定することにより、1階では旧耐震基準と同じ水平震度=0.2のままですが、上階に行くほど地震力が増幅することを補正するAiという係数を掛けて、上階に行くほど大きな地震力になるようにしました。(上図右)

この違いによりどういうことが現実に起こるかというと、旧耐震基準で建てられた建物は、低層部は地震に耐えても、高層部が耐えられない、という現象が生じたのです。

先ほど、地震力は建物各階重量が同じだとすると水平震度=0.2と規定すれば各階の地震力は同じと言いましたが、建物に必要な強度が各階同じという意味ではありません。例えば建物の1階には上階に作用する地震力が全て作用することになりますので、当然、下の階ほど大きな強度が必要になります。
旧耐震基準では、上階に行くほどその階までの重量の減少に比例して必要な強度が減少していくという仮定であったものが、新耐震基準では重量の減少に比例するのではなく、Aiという係数を掛けて地震力が上階にいくほど増幅する分の強度を割り増したのです。

下の写真は、阪神大震災で数多くの建物に発生した『中間階崩壊』という現象です。
この現象は、SRC造(鉄骨鉄筋コンクリート造)という構造形式の建物で多く発生しました。

013.jpg 旧耐震基準が想定していた強度は上階に行くほど不足することになりますので、SRC造からRC造に切り替わる階(強度が極端に変わる階)が最も強度が不足することになり、その階が崩壊したのです。

途中階が崩壊して消失した建物

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