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耐震診断

耐震診断とは何か?③

続いて、Isの計算式のほうもみてみます。

  Is=Eo×SD×T

上式のうち、Eoが強度と変形性能(靭性)の指標を掛け合わせたもので、SDが建物バランスによる指標、Tが経年劣化の程度による指標です。
SDは建物バランスによる指標ですから、先ほど新耐震基準で何が変わったか?③で出てきた話です。新耐震基準では、建物バランスが悪いと、地震力を1.5倍とか、2倍とか割り増すと説明しましたが、診断基準では逆で、建物バランスが悪いと、0.8とか0.5とかのSD値になり、Isを割り引くことになります。
Tは、例えば建物の劣化が激しく、ひび割れだらけだったり、不同沈下していたりして構造性能に影響が出ていれば、その分割り引く指標です。
従って、建物バランスがよく(SD=1.0)、劣化等がない(T=1.0)の場合、Is=Eoとなります。

  Is=Eo =1/Ai ×C×F

残念ながら、IsとCとFの関係式は非常に複雑でかつ専門的すぎますので、ここは大胆に、正確性には著しく欠きますが、上式で表現させていただきます。よそで言ったら「それは違うだろう?」と言われそうですが・・・

Aiは建物の高さ方向の地震力の増幅を補正する係数で先ほど新耐震基準で何が変わったか?②で出てきました。新耐震基準では、上階に行くほどAiによって地震力を大きくしますが、診断基準では逆で、上階に行くほどIsを割り引いて評価するためにAiの逆数(1.0以下の数字)を掛けます。
Cは建物の「強度」の指標です。大正時代から新耐震基準に至るまで水平震度、標準層せん断力係数と名称を変えながらも引き継がれている、建物の「強度」面での数値です。旧耐震基準にちゃんと適合していれば、耐震基準の移り変わりで説明したように、水平震度=0.3に耐えるはずですのでC≧0.3のはずです。(あくまでもイメージです。)
Fは建物の「変形性能(靱性)」で、新耐震基準で何が変わったか?①で出てきたDsに相当するものです。新耐震基準では、Dsを用いて必要な強度を割り引きますが、耐震診断基準では、Fを用いて強度を割り増します。建物の層間変形角(建物1層当たりの上下のずれ角度)に応じてF値というものが決まられていて、例えば、建物が層間変形角1/82(1層が3mの場合で1層の上下のずれが約40㎜)まで壊れなければF=2.0となり、層間変形角1/250(1層が3mの場合で1層の上下のずれが約10㎜)で壊れてしまうと、F=1.0となります。

以上から、(極めて大胆かつ正確性に掛けますが)旧耐震基準ギリギリで設計された建物でも、他の条件が悪くなく、変形性能がF=2.0以上あれば、Is≧0.3×2.0=0.6となることになります。逆に旧耐震基準上は余裕綽々で1.5倍の余力があったとしても(C=0.3×1.5倍=0.45)、変形性能が全くなくF=1.0だったとしたらIs=0.45×1.0=0.45となってしまいます。

また、C×Fまでは0.6以上あっても、形状が整形でない建物(L型等)だったらSDが悪くなる(0.67程度)になるのでIsは0.6×0.67=0.4程度になってしまいます。

維持管理が悪くてTが悪い場合も同様です。

ちょっと上でも触れましたが、本当は建物1棟にCとFが一つ計算されるわけではありません。
Is自体、建物の階ごと・方向ごと(長手方向・短手方向の2方向×正方向・負方向の2方向)に計算しますので、全部で階数×2×2のIsが計算されるのですが、その階ごと・方向ごとに計算するIsを構成するCとFは、その階の柱の数・壁の数の合計分近くあります。(合計分にならないのは柱壁合わせて一つの構造要素に勘定される分があるからです。)
柱や壁の位置や断面寸法、配筋等に基づき、それぞれの柱や壁がどれだけの強度を持っているか計算し、それぞれが幾らのF値になるかを算定します。三次診断の場合は梁の影響も考慮します。それだけでも膨大な計算量ですが、さらにそれらの構造要素が組み合わさった時に全体で幾らの耐力になるか(C×Fの総量)を無限に近い組み合わせに対して計算していって、一番耐力が出る(ΣC×Fが大きくなる)ところの組み合わせを採用してIsを求めます。この耐力の合計が単純合計ではなく、「組み合わせ」計算であるところに単純にC×Fで表現できない理由があります。組み合わせるときにそれぞれの部材のC×Fの値に調整が必要なのです。
耐震診断基準は手計算時代の建物に対応する基準ですのでそれ自体手計算でも計算できる手法で構成されていますが、一次診断を除き、現実的に手計算で済む計算量ではないため、通常は構造計算プログラムを使用して計算しています。


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